日本天文学会について

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会長挨拶

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山本 智(東京大学) 2021年6月

日本天文学会会長 山本 智(東京大学)

この度、本学会の会長を務めることになりました山本智です。現在、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻で、電波観測による星・惑星系形成とそこでの物質進化の研究をしています。天文学会の会長は、大変重く責任ある役割で、正直、皆様の期待に十分応えることができるかどうか不安ではあります。しかし、副会長、理事の方々を始め、会員の皆様、そして事務所の方々のお力添えを得ながら、天文学会の益々の発展のために全力を尽くしていく所存ですので、どうぞよろしくお願いします。

思い起こせば、私が初めて天文学会の年会に参加したのは、1985年10月に名古屋大学で行われた秋季年会でした。そのとき、とても印象深かったのは、参加者の集合写真の撮影があったことです。パラレルセッションも2会場で、開催期間も3日でした。それまで私が経験していた化学会の年会と比べてとてもコンパクトで、親しみやすい印象を持ったことを覚えています。それから35年余を経て、天文学は大きな広がりを見せ、また、天文学会も飛躍的に成長しました。

天文学の広がりは多岐にわたりますが、ここでは私の感じている3つの面を挙げたいと思います。第一は、宇宙の研究手段が、電磁波のすべての領域のみならず、ニュートリノ、重力波まで大きく広がっていることです。先端的観測装置が国際協力で作られ、それによって新しい宇宙の姿が次々に明らかにされるとともに、併行して大規模シミュレーションを含む理論研究が活発に展開されています。観測手法ごとの垣根を取り払い、あらゆる観測情報を総合して天体現象を探るマルチメッセンジャー天文学が発展したのも最近の特徴で、この方向性は急速に強まっていくと感じます。第二は、天文学が物理学、地球惑星科学はもとより化学から生物学まで協働の世界を広げていることです。なかでも、多数の系外惑星の発見を契機としてアストロバイオロジーという新しい学術分野が生まれ、発展しつつあることは特筆すべきでしょう。宇宙は、自然科学のあらゆる分野を巻き込むことのできる素晴らしい舞台であると言えます。第三は、社会への広がりです。天文学は多くの人に親しみを持ってもらえることから、科学に対する興味と理解を深める上で大きな役割を果たしています。宇宙に関する記事はマスコミやネット上で頻繁に報じられており、その中には天文学愛好者の方々の活躍も少なくありません。また、天文遺産の取り組みも始まり、それに関係して地域との連携も進んでいます。このように目覚ましく発展しつつある天文学の研究、教育、普及、社会貢献を少しでも後押ししていくことができればと思っています。

天文学は広がりと深まりを見せていますが、それでも自然は奥深いものがあります。このことは、「想定外」の発見や発展が大小問わず頻繁にあることからわかります。これはもっと広い意味でもあてはまり、たとえば災害などが起こったときに、「想定外」と言う言葉がしばしば聞かれます。人類は膨大な知識を獲得してきたことは事実ですが、むしろ、私たちは自然をまだほとんど理解していないと謙虚に思うべきでしょう。だからと言って途方に暮れる必要はありません。そこには無限の可能性があるということです。特に若い方々には手つかずの広大な未来が広がっているということです。このような「まだわかっていない」という考えに立った時に、様々な新しい試み、考えに価値を認めることができます。そのため、「個人の自由な発想に基づく研究」、すなわち、Curiosity Drivenの研究が、学術の発展と究極的には社会の発展にとって根本的に重要です。しかし、最近の基礎科学を巡る状況を見ると、それを保証する研究環境が様々な面で十分でない、あるいは、むしろ劣化しているのではないかと思えることがあります。このことは究極的には「学問の自由」を保証する基盤を揺るがしかねないことなので、今後の動向、特に天文学に関連する動向を注視していく必要があると感じています。

2020年の初めから、新型コロナウイルス感染症(COVID19)の蔓延によって、学会活動も様々に制限されています。会員が集い研究活動を交流する年会もオンラインでの開催となりました。初めてのことではありましたが、関係者の献身的努力で見事に実施されていることは、この状況下にあって素晴らしいことだと思います。COVID19の収束時期は必ずしも十分に見通せない状況にはありますが、その中にあっても、何としてでも学会活動のレベルを維持・発展させ、特に学生、院生、若手研究者の活動を応援できるよう、皆で知恵を絞っていきたいと思っています。一方、現在の状況の中で、将来に向けて活用できる新しい活動形態も見えてきています。オンライン会議・セミナーの活用もその一つです。そのようなところは積極的に取り込んで、学会活動をバージョンアップさせていくことも大事だと思っています。COVID19の状況にかかわらず、天文学は国際的に発展し続けています。わが国がそれに立ち遅れることのないよう、発展的思考で学会活動に取り組んでいきたいと考えています。

日本天文学会会長 山本 智(東京大学)

私は、大学院時代、物理化学を専攻し、分子構造論と分子分光学の分野で研究をしていました。その後、名古屋大学で助手をしていた時、新しい星間分子の発見を契機に、天文学の素晴らしさに惹き付けられ飛び込みました。このような新参者でも、温かく迎え入れてくれた天文学会とコミュニティーに深く感謝しています。天文学が大きく広がりを見せている今日、このような経験も生かして、学会の益々の発展に貢献できればと思います。皆様、どうぞよろしくお願いします。