日本天文学会要望書
中央教育審議会会長 鳥居泰彦 様
初等中等教育分科会長 木村 孟 様
平成17年7月14日
社団法人 日 本 天 文 学 会
理 事 長 祖父江 義明
教育問題懇談会座長 松田 卓也
次代をになう子どもに豊かな科学的素養を
宇宙の話を聞くとき、子どもはみな目を輝かせます。現代天文学が描き出すダイナミックな宇宙の姿は、自然への好奇心をかきたて、理科の学習意欲を高めます。宇宙を学ぶことによって子どもは、自分たちのルーツを考え、人類が地球を舞台として文化・文明を発展させてきたことに思いをはせることができます。このことは、かけがえのない地球を大切にし、自然との共生、人間相互の共存と平和を考える心を育むためにも必要です。
日本天文学会は、以上のような観点から、今回の初等・中等教育の教育課程の見直し、学習指導要領の改訂にあたり、次の2点を強く要望いたします。
(1) 現代の宇宙観を含む科学的素養が身につく教育課程にすること
子どもが、宇宙・地球・生命・人類のつながりを、空間的かつ歴史的に把握し、現代的な宇宙観を知り、社会人として必要な科学的素養を身につけることを目標として、理科の教育課程を編成すること。
(2) 小中高校において宇宙について持続的・系統的に学べること
小・中学校理科では、宇宙について持続的・系統的に学べるようにし、現代的な天文教材を活用して、現代の宇宙観にも触れさせること。高等学校では全生徒が現代天文学の到達点を踏まえた宇宙観の基礎を身につける理科教育を実現すること。
学会としての教育への取り組み: なお、日本天文学会としても、教育現場の先生方を支援する仕組について、教育問題を考える組織をおいて検討しています。すでに年2回の学会中に、天文教育フォーラム(天文教育普及研究会と共催)、中・高校生を対象としたジュニアセッションの開催をはじめ、科学館・社会教育施設への講師派遣などを実行しており、今後さらに関係各方面との協力を進めてゆくつもりです。
以 上
主旨説明と具体的要望事項:
(1)現代の宇宙観を含む科学的素養が身につく教育課程にすること
「自主的精神に充ちた心身とも健康な国民の育成」(教育基本法第1条)を目的とする学校教育において、すべての児童・生徒に豊かな科学的素養を身につけさせる機会を提供することは、国として必要不可欠なことです。宇宙・自然の中での人類や自分自身の位置づけを考えることは、現代社会に生きる人間にとって極めて基本的な思考活動です。地球の動きはもちろんのこと、現代の天文学を学ぶことは、この目的のために最適です。
天文学はまた、生徒たちの科学一般への興味・関心を喚起する導入手段としても適しています。さらに、地球規模の危機をはらんだこれからの時代の社会人が、未来の地球に責任をもって生きてゆくためにも、現代天文学の到達点を踏まえた宇宙観・自然観を身につけていることが必要です。科学的素養を持った心豊かな国民を育むため、宇宙・地球・生命・人類のつながりを空間的かつ時間的に意識した視点を学習活動に盛り込むことを希望します。
(2)小中高校において宇宙について持続的・系統的に学べること
現在の教育課程では、宇宙や科学への関心が高い小学校時代に、天文に関する学習はわずかに3・4年で、しかも限られた内容でしか行われていません。その後中学3年で再び登場するまで、天文・宇宙の学習に4年間ものギャップがあります。
また、現在の高等学校理科は、理科基礎・理科総合A・理科総合Bが選択必修で、それぞれ物理・化学・生物・地学領域の一部のみが扱われているに過ぎません。このため、断片的な知識は得られるものの、総体として豊かに自然を感じ、法則性を理解することは困難になっています。
[具体的要望事項 1]
現在の小学校理科では3・4年でのみ、天文・宇宙の学習が行われており、内容も太陽・月・星座の見かけの動きに限られてきました。地球が太陽の周りを回っていることや、球体であるという事実すら、中学校3年まで教わりません。しかし家庭や社会で習うことにより、これらの事実は常識として、生徒に広く知られています。このような現実と、学校で習うことがらのギャップは、生徒に無用の混乱を招き、宇宙ひいては理科の学習への意欲を失わせていると危惧されます。
そこで私たちは、小学校の理科において、生徒が観察したことから演繹して学習するだけでなく、太陽系の図を用いる等の工夫により、地球の形や運動をはじめ近代の宇宙観の基礎を学習し、恒星や銀河など現代の宇宙観についても学習することを強く要望します。
そのために、小学校3〜6年の各学年、および中学校1,2年において、宇宙について、持続的かつ系統的に教育することを要望します。
[具体的要望事項 2]
現在の中学校理科第2分野の天文単元は、地球の自転、公転と季節変化、および内惑星の視運動と満ち欠けの理解に重点が置かれています。これらの内容で義務教育の天文分野が終わることは、我が国の科学教育の限界を自ら定めてしまうに等しいことです。
中学校理科においては、太陽系とそこに住む人類の存在の意味や、自分たちの置かれた環境を大きく客観的な視点で考えるため、ビッグバン宇宙や、銀河・銀河系・星・星間空間を含む、現代の基本的宇宙観を主眼とした内容に変更することを要望します。
高校理科においては、すべての生徒に対して、宇宙についての学習が盛り込まれることを要望します。また、地学の履修を希望する生徒に対しては、それを可能にするよう課程環境を改善することを要望します。
以 上