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2016年 会長挨拶

市川 隆(東北大学) 2016年4月

市川 隆(東北大学)

高校生を対象とした講演会の後、「天文学の研究者になりたいが、友だちから天文学は社会の何の役に立つのかと聞かれ、答えられず、進路を迷っている。先生はどう思うか」と質問されたことがあります。一方で、天文学は社会からますます注目を集めています。ニュートリノの質量の発見で日本天文学会会員の梶田隆章博士が2015年ノーベル物理学賞を受賞しました。天文学分野でも多くの科学者がノーベル賞を受賞しています。ついに重力波が発見されたニュースには新しい天文学の始まりに心が躍ります。また日本のKAGRAによる重力波の本観測が待たれます。アルマ望遠鏡は電波で見る宇宙から次々と新しい発見を伝えています。そして、光と赤外線ではTMT(30メートル望遠鏡)の建設が始まりました。このように最近の天文学は話題に事欠きません。

日本天文学会は研究者のみならず、アマチュア天文家・天文愛好家など、約3000人の会員で構成されています。会員が一同に集まる「日本天文学会年会」では、毎回多数の最先端の研究発表がありますが、同じ会場で中・高校生による「ジュニアセッション」も開催されています。このようにプロとアマが一緒に活動する学会は珍しいと聞いています。このことが天文学の教育と普及の大きな力となっています。天文学を直接仕事に生かす職はあまり多くありませんが、天文学や関連分野を専門に学んだ多くの人たちが、大学や研究所以外でも、一般企業、学校・教育機関、科学館、公務員など、様々な分野で活躍しています。宇宙への素朴な関心を持って天文学の勉強や研究に励んだ学生たちの思考は柔軟です。当学会ではそのような学生に様々な進路へのキャリア支援も行っています。

天文に関する講演会、出前授業、観望会などでは子供から大人まで年代を問わず多くの方々に参加して頂いています。毎年、7月と8月に行う日本天文学会主催の「全国同時七夕講演会」では100以上の会場での講演会・観望会が行われ、好評を博しています。天文学は物理、化学、生命科学とも密接に関係して、すそ野がどんどん広がっています。皆さんの周辺にも天文に関わっている方がいるかもしれません。直に話を聞くことができたら最先端の話題でますます天文が面白くなるでしょう。当学会には、一般向けの講演会に講師を紹介する「講師紹介プログラム」もありますので、どうぞご利用ください。

さて、最初の高校生の質問ですが、しばらく私の話を聞いてもらったところ、その高校生は「やっぱり天文学の分野に進学することにしました!」と帰って行きました。私がどのような話をしたかは省きますが、この高校生に多少なりとも天文学について理解してもらえたことをうれしく思いました。天文学を始め、すぐには役に立つとはいいがたい基礎科学に携わる私たち研究者にとって、社会との関わり様は、昨今、常に問われる課題です。私たちはこの答をしっかり持って、天文学の研究・教育と普及に尽力していきます。

会長と望遠鏡の写真

最後に、日本天文学会には賛助会費や皆様からのご寄付によって運営する様々な表彰・助成制度があります。改めて日頃の皆様のご支援に御礼申し上げます。この制度によって得られた成果や顕彰された研究は、当学会の機関誌「天文月報」に掲載されています。内容は少々専門的かもしれませんが、皆様のご寄付によって多くの成果が得られ、また若い研究者の成長に役立っていることを少しでも知って頂けたらうれしく思います。日本における天文学の発展のため、ご寄付につきましても今まで以上にご理解とご支援を何とぞよろしくお願いいたします。