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2017年 会長挨拶

柴田 一成(京都大学) 2017年9月

柴田 一成(京都大学)

先日ある工学系の学会会員向けの宇宙に関する講演を頼まれたのですが、そのときの講師紹介の中に、「100年以上の歴史がある日本天文学会の会長を務めておられます」という説明があって、少し驚きました。そうか、日本天文学会は数ある学会の中では歴史がある方で、そういう由緒ある学会の会長に就任したのか、と身が引き締まる思いがしました。そこで私は、古くから多方面に開かれた日本天文学会の大切な特長を保ち、課題の解決に務めていきたいと改めて思った次第です。

日本天文学会は1908年創立、2017年の今年で110年目になります。2017年9月1日現在の会員数は、正会員2,048名、準会員1,118名、団体会員37団体、賛助会員40法人、合計3,243名です。私が入会した40年前は、会員数が2,000人ほど、うち特別会員(現在の正会員に相当)は500人ほどにすぎなかったことを考えると、隔世の感があります。

会員数は毎年およそ30人ずつ増え続けていることになります。日本の人口増加が鈍化し、ついに減少し始めた昨今を考えるとこの順調な増加はずいぶん異例のことです。これは何を意味するのでしょうか?

天文学は宇宙の森羅万象を扱いますから、どんな分野の研究者や専門家も宇宙に興味をもちさえすれば、天文学研究が可能です。私はこれが天文学(会)の大きな魅力の一つだと思います。天文学の授業を受けたことのない、物理学、化学や工学の研究者が、電波、赤外線、X線、ガンマ線、人工衛星、情報など新技術や理論を持って学会活動に入ってきています。かくいう私も、天文学というタイトルの講義は受けたことがありません。近年は、太陽系外惑星の発見にともなって地球惑星科学や宇宙生物学など、元をたどると地質学や生物学、化学の分野の方々も続々と本学会に参加されています。

本学会では、毎年春と秋に、会員及び天文学研究者が研究発表を行う「年会」を開催しています。このような会員数の増加にともない、年会でのパラレルセッションの数が増え続け、ついにこの2017年秋季年会では11にもなりました。私の大学院生時代はシングルセッションであったことを考えると、これも隔世の感があります。セッションの数がたくさんあること自体は、講演数から考えてやむを得ないことですが、超パラレルセッションの壁に阻まれていくつもの講演を聞き逃し、もったいないと感じることも多々あります。天文学関連の研究者が一堂に会しているからこその分野横断型セッションや、他学会との合同セッションをもっと持ったり、レビュー講演を主とする全体セッション(あるいは企画セッション)を主とする可能性も検討してまいりたいと思います。

開かれた学会という観点で言えば、学会(年会)の国際化も重要な方向性です。8年前、私が日本天文学会副理事長のとき、年会で国際セッションを企画したことがあります。天文学の分野では国際的に英語が多く使われていることから、セッション全体を英語での発表にし、外国人研究者の招待や参加を促す、というものです。このときは、年会申し込みページの英語版作成から始める必要がありました。国際化はなかなか大きなテーマですが、日本天文学会ホームページの英語版作成、少数セッションの国際化くらいから少しずつ実現できれば幸いだと思っております。

日本天文学会はいわゆる専門家だけでなく、アマチュア天文家や天文愛好家に対しても開かれており、そうした方々の研究発表も行われています。これも天文学会の大切な特長です。ジュニアセッションが20年ほど前から始まり、理科教育の当事者を含む支持を得て、今なお発展しているのは、その一つのあらわれでしょう。こうした活動をサポートし続けるためにも、前理事会がはじめたホームページの改革、広報活動の拡大などを今理事会でも継承発展させていきたいと思っています。

柴田 一成(京都大学)

天文学はこのように広く市民の方の関心を惹く一方、外部環境にかかわらず自由な議論が行える学会である、ということも大切です。 これは本学会の大先輩のみなさんが、次世代に伝えようとしてきた重要なメッセージです。 折しも、私の会長就任が決まった代議員総会で、「安全保障と学術」に関する日本学術会議の声明という重要な報告がなされました。あらゆる学問、あらゆる国、あらゆる人々に開かれた天文学だからこそ、平和なしには天文学の発展はありえません。そのことを自覚し、「安全保障と学術」の問題に関する自由活発な議論の場を、会員の皆さんと共有し、市民の皆さんとともに歩みを進めていきたいと思います。人類の未来の平和のために。

皆様方のご支援ご協力をよろしくお願い申し上げます。